長谷邦夫はてなダイアリー・アーカイブ

長谷邦夫はてなダイアリーのバックアップです。今のところ更新は無い予定です。

『不良少年のSF映画史』(5回目)・長谷邦夫

 誰も居ない二階席から立ち上がったままヤッて、一階の
中国兵の頭に精液をぶっかけてしまったこともある。
 館内の闇の中を飛ぶ液体が、映写室から放射される七色
の光を反射し、あたかも遊星からの物体Xのように落ちて
いく光景は今もくっきりと記憶している。

 階下のざわめきに、ぼくは首をすくめ、小走りに二階の
女子便所へ逃げ込む。そこでしばらくジッとしているのだ。
ついでに落書きもやった。
「姫の逃亡を助けながらも、ルークとE.T.はレーア姫に対
する恋心から争いいが絶えない。ここでR2・D2の登場
となる。デススター船内の乞食ジャワが、船内のクズ部品
を掻き集めて作った小型ロボットで、やたら<ホトンド
ビョーキ>という言葉を繰り返す。」
 これが子供たちの間で流行語になったのは当然である。
ぼくの古本転売もホトンドビョーキ。だんだん昂じて、夜
遅く家に帰ったりするようになってしまった。そして遂に
不足分を満たすため母の下着を盗み出し、やはり芳林堂の
ハゲ頭のお兄ちゃんに売った。

 ぼくが盗みをやっているのを、ちゃんと知っていて、本
が無ければ洗濯していない女の下着でもいいんだよと囁や
かれたからである。
 ところで音楽のことも少し記しておこう。このシリーズ
全体の作曲はジョン・ウイリアムス。しかし当時は映画と
は関係ないイメージ・ソングと称するものが、予告篇に流
されていた。
 レコード会社が日本人向け、中国人向けに勝手に作って
しまうのである。映画が、レーア姫側の大勝利に終わった
あと、姫と別れて再び宇宙の彼方へ旅立たねばならぬE.T.
(彼の祖父ベン・ケノービが危篤なのである。)の後ろ姿
にダブって流れる『何日君再来(ホオリンチンツァイライ
)』は日本人の間でさえミリオン・セラーになった。


 ♪好花不常開 好景不常在
  愁推解笑眉 涙酒相思帯
  今宵離別後 何日君再来

 作詞・作曲・歌手ともに今となってはもう分らない。ぼく
はこの歌を、酔って唄っているときに、中国憲兵にみつかり
逮捕されてしまったことがある。夜十時以降が戒厳令の状態
だったことを、すっかり忘れていたのだ。
 手錠をはめられ、取調べ室にいたぼくを引き取りに来た両
親は激高し、「不良!不良!」と叫び、母は泣いた。
 しかしぼくは手錠をはめられることには、さほど深い象徴
的意味を認めていなかったので、そのままで股を開き、両親
に向かってオナニーをするしぐさをしてみせた。そして例の
「アチョ、アチョ、アチョチョーッ!」
 という咆哮をやった。実にツッパリな不良少年時代だった
のである。(完)