長谷邦夫はてなダイアリー・アーカイブ

長谷邦夫はてなダイアリーのバックアップです。今のところ更新は無い予定です。

『不良少年のSF映画史』(3回目)・長谷邦夫

 ぼくの記憶では、この父親チューバッカは未亡人下宿に入りびたりの
すごい無精ひげをはやした中年男である。しかしこれはニュープリント
を編集する際、紹興酒を飲みすぎた中国兵の素人フィルム編集委員が、
にっかつロマン・ポルノのフィルムの一部を、冗談まがいに繋いだ結果
なのだ。
 ロマン・ポルノがどんな映画であったか、以前もぼくのビデオ・エッ
セイ・シリーズで紹介したことがある。その中のぼくと淀河長春氏との
対談の中からの抜粋で、ご想像願いたい。


長谷 ロマン・ポルノ映画というものを御覧になったのですか?
淀河 はい、わたし四歳の時、芸者さんに連れられて見ました。
   ビニ本というプログラムをくれるんですね。それとビニー
   ルの袋もくれます。この袋の中にオナニーしながら見るた
   めの映画なんですね。わたし、オナニーの年齢でなかった
   ので、芸者がシンナーとかいう幻覚剤をそこに入れてくれ
   ました。それをクンクン嗅ぎながら見るんですね。
長谷 『未亡人下宿』をですか?
淀河 はい。パリの裏町の香りを、安いセット使って山本信也いう
   監督、うまく表現してましたです。ほとんどビョーキの身を
   押して撮影したいいますね。溝口健二川島雄三、山本信也
   この三人が日本の美を映画に残しました。ビデオの時代にな
   りますと、もう映画芸術はありません。暗い戦争の予感しま
   した。
長谷 先生が四歳の時に…。
淀河 そう、ハッキリ憶えていますね。その翌年、富士山が大噴火
   一気に日本は戦争に突入していきました。こわいこわい時代
   が長い長いあいだ続きました。15年戦争。
   映画館の裏口では戦争反対者が、こっそり裏本いう思想書
   売ってたりしました。
長谷 お読みになられたんですか?
淀河 はい、四歳の時。全部暗誦できますよ。


 まあ、そんなフィルムがSF映画に紛れ込んでいたのだから、時代の
混乱ぶりも、大変だったことがお分かりいただけるだろう。
 ぼくの古本盗みは続いた。そしてその古本の中から、何と『スター
・ウォーズ』が日本初公開になったときに出版された、講談社発行の
週刊少年マガジン」増刊・コミック『スター・ウォーズ』永久保存
版を発見したのである。
 たった106ページ、4色のオフセット印刷で定価が250円。
 原本はMARVER COMICSで、スタン・リー提供、ロイ・トーマス脚色
ハワード・チェイキン画とある。日本語訳は小野後世氏だ。しかし残
念ながら、このマンガ本はボロボロになってしまっており、全体の三
分の一程度しか残っていない。56ページ「デス・スターの決闘」を
書き抜くと、

銀河帝国の大要塞…。デス・スターに強制着陸させられたルーク、
ハン・ソロ、チューバッカ、E.T.それに救出されたレーア姫は、帝国
の放った猛犬連隊に囲まれていた。」

 この猛犬というのは、実はエイリアンが変身したもので、突然頭が
真っ二つになったかと思うと「ギーガー!!」という奇声を発する。
ドロドロに溶けた肉や骨や内臓やらが、ひとかたまりになった怪物と
なって襲い掛かり、その全身からは、スパゲッテイ・ナポリタン風の
ニョロニョロした管を出して、緑色の毒液を吹き付けるは、E.T.たち
にからみつくは、ついでに信じられないほどの量の糞を盛り上げるは
の大暴れ。<続く>