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『不良少年のSF映画史』   長谷邦夫

 『スター・ウォーズ』(原題「STAR WARS」)は戦後、
フィルム不足を戦前のアメリカ映画の再上映でしのいでいた台映系
の映画館で上映されていた。
 ぼくがよく通ったのは、当時中国占領軍に接収されていたシネマスクエア
と新宿コマ東宝であるが、シネマスクエアの方では時折、香港制作の中国革
命映画をやっており、これが嫌いなため、地下のコマ東宝に多く行っていた
のだ。
 『スター・ウォーズ』は三十本あるが、その代表作は『スター・ウォーズ
帝国の逆襲』、『スター・ウォーズのレイダース』などだけで、第十八作の
『中国のスター・ウォーズ』となると、もう殆ど見るに耐えない。
 しかしながら、少年時代のぼくにっとてどのスター・ウォーズ映画もやは
り面白さのひとつの頂点をなすものだった。クラス・メートにも主演のハリ
ソン・フォードの影響をもろに受けている者が大勢いて、フォードの、
「アチョ、アチョ、アチョチョーッ!」
という咆哮が、そっくりにやれるやつほど女の子にもてるという位だった。
この咆哮、現在老いて、スペースコロニーの老人ホームに入り、ときおり
スーパーで万引きしては話題になるフォードが、廊下へ踊り出てはやたらに
叫ぶので、他の老人たちが大いに迷惑しているという話しを聞く。
 さてこの『スター・ウォーズ』のニュープリント版が上映されていた頃
が、ぼくがいちばん悪質だった時代なので、その頃のことを少し書いてみ
よう。

 映画代の盗みは、弟と一緒になって、ちょくちょくやっていたのだが、
レーア・オーガナ姫のオナニーシーンにイカれるようになると、そんな
盗みだけでは間にあわなくなった。
 そこで、漫画家だった父の蔵書を、家人の寝静まった夜、本棚から次
つぎに盗み出して、カバンに入れておき、登校途中に古書店へ売りにい
った。もちろん父の描いた本を盗むと、すぐバレてしまうので、手塚治
虫という人の単行本を主にねらった。この人の古本は戦前から大変高価
なものであったから、高田馬場駅前の芳林堂へ持っていくと、おおいに
喜ばれた。
 『ジャングル・キング』、『スーパー太平記』、『リボンの騎士』、
『化石島』、『火の鳥』、『パタリロ』、『サイボーグ009』、『ど
ろろ』…印象に残っているタイトルは、まあこんなところだが、これを
店主のハゲ頭のお兄さんが、中国軍票で気前良く買ってくれた。
 今思い出すと、数千元であるから、法外に安い値段であったに違いな
い。それでも当時のぼくにとっては充分豪遊できる大枚の金であった。
 なにしろ中学一年生のくせに、午前中から歌舞伎町うらの黄金飯店街
の酒家の二階へ転がり込んで、クーニャンとかリャンハンとか呼ばれる
あいまい女給から性の手ほどきを受けていたのである。
 彼女たちが携帯しているハリを、背中の或るツボに射すと、射精した
あとでも、ずっとペニスが屹立したままという秘術を、はじめて体験し
たのもここである。<続く>